綴虚堂の日々

ヲタの日常

刀ステ「禺伝 矛盾源氏物語」

ということで、刀ステ「禺伝 矛盾源氏物語
今回はまず配信で見ました。
このあと現地も待っておりますが、もうこれは今のタイミングで感想を書くしかないと。
人に紹介するための感想でなく、自分のための感想ですので、そのあたりは悪しからず。
核心部分についても触れています。

今回の公演はこれまでのシリーズと違い、宝塚OGを刀剣男士キャストに据えたオールフィメール公演です。
ぶっちゃけ最初は声に違和感がありました。幕が開く前の台詞とかね。
でもほら、歌舞伎だってお姫様が野太い声しているのに最初は違和感があるわけで。
宝塚OGの方々は「理想の男」を演じるプロとして研鑽をつまれてきたわけなので…舞台上での動きを見ていると、声もそのうち気にならなくなっていくんですよね。

刀ステシリーズというか末満さん作品恒例の、オープニングの踊りはさすがの仕上がり。
若手中心の作品だと、ダンスするにもキャラごとの個性を出した振り付けになることが多いですけど、あれって綺麗に揃えられないなら個性をしっかり出したほうがよいっていう理由も間違いなくあるわけで。
(ミュの源氏兄弟のキャストさんがたなどはやれるでしょうが、若手でやれるのはそういうダンサー系の経歴を持つ一部の方々くらいかと)
けれど今回のメインキャストは、一糸乱れぬダンスの訓練をつんできた方々。
優雅だし、メインキャストの方々がそろった踊りは大変華やかでございました。

今回のストーリーは、平安の時代に向かった刀剣男士一行が、「現実の世界に源氏物語が侵食している」異変に遭遇するという導入。

で……今回は、オールフィメールで大正解だと思います。
源氏物語に含まれる女性蔑視的な描写を男女どちらがやるほうがましかというのは人によって判断がわかれるところでしょう。
女君たちとキャラクターキャストが対話するのも、別に男女どちらでもいいと思うんです、が……
若紫のシーンは、男性キャストだとえげつなさが増してしまって嫌悪が強くなりすぎそうで。
若紫ちゃん、本当に可愛らしくてこう……その分「この男は……!」という感覚が。
文章で読む分には「当時の普通だから」と思えるんですが、リアルな人のビジュアルでお出しされるとね……

なお、雨夜の品定めのような現代的に「うわ……」となる場面には、きっちりフォローが入るので、そのあたりのコントロールはお見事だと思います。
(そのまま「空蝉」の、夜這いの場面を偵察する刀剣男士という光景が出てくるわけなんですが、そこで「こうも人の色恋に関わるとは」「人の営みの側にあった短刀の子らのほうが適任だったのでは」という発言。いやそんな、短刀ちゃんたちのほうが色々詳しそうとは二次創作で散々言われてきたけど公式派生作品で言われるとは思わなかったですよ)

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初日配信、全体を通じてちょこちょこ噛んじゃってたのが少し残念ポイント。
誰がというより連鎖的になので、気をつけないとというのが積み上げられた結果、かえって失敗しちゃう現象ですかね。
舞台って怖い…

宝塚出身の方々って、歌と踊りと演技はがっつり経験してらっしゃるわけですが、殺陣はそこまでみっちりではないはず(経験していても、もうすこしダンス的なイメージ)なので、今回楽日に向けて変わっていくところも楽しみにしています。

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今回、冒頭のキャラクター登場台詞で「?」となりました。
「いつかの主が」「誰だったか」
そこの部分、もうちょいはっきりしてなかったっけ?と。そうしたらそこがばっちりギミックで。
作中において、歌仙兼定細川忠興ではなく細川ガラシャを元の主だと呼び、大倶利伽羅は伊達家でなく徳川将軍家の物語を持っていると語ります。
そして一文字の刀たちにも、本来とは異なる逸話が付けられており、こちらは異常を自覚した上で歌仙と大倶利伽羅を観察する側に回っています。
ここで則宗が、「古美術商が刀剣の価値をつり上げるために嘘八百の逸話をつけることもある」と言うんですが、ここでこの台詞、本気でえげつない…
いや、確かにその通りですよ。セールストークリップサービス的なお話で逸話が付与されてしまうなんてよくあるお話です。
ただこう、歌仙兼定の36人斬りもその一つではないかという話がありまして…
作中で、彼らがあきらかに事実ではない物語を自分のものとして誇るように語り、存在を確認するかすがいとする姿は、見ていてものすごく居心地が悪いものです。
けれど、たとえその偽りの物語ではなく、本来の物語を語ったとして、それは作中の嫌な状態と何一つかわらないのではないかと。
これ、作る側わかってやってますよね……? 永青文庫の橋本先生、今は刀剣乱舞の監修に入ってらっしゃいますし、今回のは初日から反応を楽しまれていらっしゃいましたし……

「物語を歴史へ、虚構を現実へ」
光源氏だった男の目的は、光源氏が生きた証を残し、後の世に源氏物語を史実と認識させること。
これもすごく怖い。
確かに、源氏物語はフィクションでしかないものです。
けども、歴史として扱われたフィクションってたくさんあるんですよ。
関八州古戦録とか、今でこそただの軍記で信頼性は低いと言われますけど、昭和あたりでは「歴史」でした。
他にも、郷土研究方面だと未だ猛威を振るう偽文書類なんてものもあります。
そもそも歴史の検討をするときに使う史料だって、基本的に何かしらの意図で盛られています。
手柄のアピールだったり、祖先の顕彰、あるいは教育のための材料。
刀の逸話って、主に前者二種類の過程でついていくわけです。
歴史方面で逸話と言われたら、それは大概後世に生まれた偽りのもの、なんですよね。
「物語を礎とする我らも大嘘」という則宗の台詞は、そのあたりばっちり自覚的でございましたね。

「物が語る故物語」
刀剣乱舞のキーフレーズであり、これまで何度も繰り返し目にしてきたものです。
でも今回、作中でその言葉が登場するまでの積み重ねの結果、彼らはむしろ「騙って」いやしないかと思ってゾクっときました。

刀ステと刀ミュの歴史に対するスタンスの差が前に話題になっていましたが、この先がすごく不安になります。
ステの物語は「正史」を、あるべき形を重視している。
けれど、その一方でその「正しいもの」に対して、それは本当に確かなものなのか、という疑問がついて回る。

「物語が現実にまで這い出してくるようなことがあれば僕たちの負け」
そう言うけれど、今「正しい」と呼んでいるそれも、既に物語が浸食しているのではないか?
とても怖い。

そして繰り返し語られる胡蝶の夢の逸話。夢も現もどちらであっても同じことだと。

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そしてあとはしょうも無い感じの感想を。
私、役者さんのビジュアルについてはそこまでこだわらない方だと自認しております。
グッズも、ブロマイドとか、俳優さんの姿を使った系はそこまで興味がなく。

なんですが今回、山鳥毛さんの見目にくらくら来ております。
写真はまあいいんですが、殺陣の最後でサングラスをくっとずらして目線を寄越して、すこしだけはにかんだように笑うあの表情!
あれやばい……
いやこう、今回の山鳥毛さんって、宝塚のスタンダードスタイルっぽい外見だから、ある種見慣れた感じの見た目くらいに思ってたので余計になんでこんなことに感すごい…

南泉君、事前のビジュアルから、これまででいちばんイケメンタイプのにゃんせんくんかなと思ってましたが(他のにゃんが可愛い全振りだからね)、確かに格好いいけどちゃんと可愛くて安心しました。大人ネコチャンの可愛さ。
そしてお腹がちゃんと守られててよかったです。

則宗さん
お人形のような見た目で高笑いして、殺陣ではなんならにゃんよりも荒っぽい動きをして。
声も見目も原作とのギャップがあるのにイメージ通りと思っちゃうのが面白いですね。

歌仙さんは、お綺麗なのに、これまでのステ本丸や無双本丸と同じようにどっしりした殺陣が印象的でした。
(このあたりキャラとして共通部分だなというのがわかる分、片手打ちで細身な刀身とのギャップが面白いと思っております)

光源氏はキャラとしてはうざいんですが、力量に裏付けられた説得力すごくてお見事でございました。

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今回演者さんが女性だからか、真剣必殺の演出はなしでした。
個人的には、肌は出さなくてもいいけどキャラの血みどろ姿は好きなので、ちょっと残念ではあります。
ただこう…あの逸話がいじられた状態の歌仙さんは忠興由来の鼻の傷つかなさそうだなと思うと、こうくるものもあり……

オールフィメールの舞台、男性メインとは違う制約が出るものの、逆に男性メインでは難しかった表現が出来る部分もあるので、それはそれで面白いなと思いました。
刀ステシリーズとしては末満さんの仕事量が心配だからあれだけど、別シリーズとしてオールフィメールの菫本丸を継続してくれないかしら…